「悪魔のような制度」自治医大・修学資金3766万円“一括返還”巡る訴訟で原告側が意見陳述「家族か医師免許かの二択、迫らないで」
自治医大は旧自治省(現総務省)の主導で都道府県が共同設立した私立大学で、入学者全員に修学資金が貸与される。 卒業後、出身県が指定する僻地等の公立病院に貸与期間の1.5倍(標準9年)勤務すれば返還が全額免除されるが、途中で辞めれば元本に加え年10%の損害金を上乗せした返済を求められるというものである。 原告の男性医師A氏は2015年に入学し、2022年に卒業。愛知県の職員兼研修医として勤務したが、父親の失職や自閉症の弟の介護、妻の妊娠による扶養負担増で経済的に困窮。勤務継続が困難になった。 2023年5月に退職届を提出したところ、県から事実上の免職を通告され、大学側から修学資金2660万円と損害金1106万円の計3766万円の一括返還を請求されている。 A氏は昨年3月の提訴時の会見で、自治医大の修学資金制度について「無知な受験生を囲い込んで、卒業後、退職の自由を奪った上、不当な労働条件で使いたおす、まさに悪魔のような制度」と非難していた。 一方、大学側は昨年、同額の支払いを求める反訴にも踏み切った。これを受け原告側は今回、当初の債務不存在確認請求の一部を取り下げ、訴えの変更申立書を提出している。 本件の争点の一つは、労働基準法16条(賠償予定の禁止)の適用可否だ。同条は使用者が退職時の違約金や損害賠償額をあらかじめ定めることを禁じるが、大学側は「使用者ではない。雇用主は県であり別個の主体だ」と主張する。修学資金を貸すのは大学、雇用するのは県という三者間の構造がある。 原告側は今回、労基法上の「使用者」は現在の雇用関係の当事者に限定されず「将来の使用者」も含みうる広範な概念であると整理した上で、大学と県が入試から契約締結、キャリア形成プログラムの運用まで一体的に制度を運営してきた実態を詳述し、両者は「共同使用者」に当たると主張。 出向・派遣で1つの就労に複数の使用者が成立する例を挙げ、大学による契約締結は「県の雇用管理の一環だ」とし、「仮に直接適用が否定されたとしても、類推適用や公序の重要な一部としての考慮は十分に可能」との見通しを示した。 加えて、補論として国家公務員の留学費用償還制度との比較も提示された。同制度では帰国後5年勤務で返還が免除され、5年に満たなくても1か月ごとに60分の1ずつ減額される。仮に2年勤務して退職しても、約4割が差し引かれる計算だ。 一方、本件の修学資金制度は返還免除まで最短9年(A氏の場合は7年在学のため10年6か月)を要し、勤続期間に応じた減額措置が一切ない。A氏は実際に約2年間、研修医として指定病院に勤務していたが、義務年限を満了しなかった以上、その実働分は返還額に反映されず全額を請求されている。 青木弁護士はこの点を「働いた分の成果は県が享受しているのに、返還額には一切考慮されない。前近代的だ」と批判した。
自治医大側は「合意のうえで貸与」主張
なお、自治医大は弁護士JPニュース編集部の取材に対し、次のようにコメントした。 「本学では、経済的事情により高い資質や志が行き場を失うことのないよう広く門戸を開き、条件を満たすことで返還を免除する『修学資金貸与制度』によって、入学金・授業料が実質不要となる制度を実施し、経済面から学生の志を支えています。 この制度により、本学に入学された学生の方々は平等な学びの機会が得られ、本学の教員も一丸となって、学生の方々の志や社会の要請に応えようと総合医の育成に取り組んでいます。 在学中に貸与した修学資金は、医師となった卒業生が一定の年限を出身都道府県における地域医療に従事することで返還が免除されます。これまでに3800名以上の卒業生がその志を実現し返還が免除され、返還が免除された後も約7割の卒業生が出身都道府県に留まり、それまでの経験を活かしながら、地域医療に貢献しているところです。 しかしながら、免除の要件を満たさない場合には、在学中に貸与した修学資金(本来大学に納めるはずの修学資金)は返還いただくことになっています。 これらの修学資金貸与制度については、受験生に公表されており、本学の理念や制度にご賛同いただけない方はそもそも本学を受験しないという判断が可能です。もしくは受験して合格しても、入学するかはご本人の選択に任されています。 実際の貸与にあたっても、本学と学生との間で貸与契約を締結し(学生が未成年の場合には親権者が連帯保証人となり、親権者の同意のもとで締結し)、合意のうえで貸与しており、本学が学生に対し貸与制度を強いているかのような評価は妥当ではありません。また、本制度が憲法違反であるとの指摘も全く当たりません。 係争中の本事案については、訴訟前から先方に対して再三にわたり、大学の姿勢と考え方を伝えて、修学資金の返還を求めてまいりました。本事案で原告となっている医師は、上述の本学の制度を理解した上で本学を受験し入学され、本学との貸与契約に基づき修学資金の貸与を受けて本学にて医学を学び、その結果医師の国家資格を取得されている方です。 そして、その後、当該医師の判断で、地域医療に従事することを断念され、貸与契約の返還免除の要件を満たさなくなったことから、本学は、同貸与契約に基づき、当該医師らに対して返還を求めており、かかる返還請求は、契約に基づく正当な対応であると考えております。 本学としては、引き続き修学資金の返還を求めていくとともに、この制度の社会的意義の大きさ、憲法はもとより関係法令に適合していること等について、今後も必要な主張を尽くしてまいります」
ちなみに地域枠の離脱違約金は10%の上乗せ分は違法として認められませんでした
山梨県に対する訴訟 一審勝訴判決のご報告
― 当機構が求めた違約金条項の差止請求が全面的に認められました ―
「地域枠医師に貸与した本件修学資金及びその利息の即時一括返還によって十分に填補され、それ以上に県に損害が生じるものではない」「地域枠医師が特定公立病院等以外の病院に転職することを著しく困難にするものというべきであり、地域枠医師の将来のキャリア選択の機会を大きく阻害し、その職業選択の自由や移動の自由を侵害するもの」として、違約金が不当条項に当たると認めた。
転職することを著しく困難にしてるから地域枠として成り立つのに、これを許してしまったらもう離脱者が増加することは避けられないですよね。
看護師が看護学校からお金をかりてお礼奉公として勤務すると返済が免除される病院もありますがこれも違法と判断されました。
私としてはこの自治医科大学の制度はやはりおかしいと思います。しかし同じ医師免許を得るのに下駄を履かせてもらってそれでいてその約束を反故にして、逃げたもの勝ちになるのもおかしいと思います。地域の医療を本当に守りたいならやはり関西電力のように巨大な組織体を作ってその中で転勤をしてもらったりするしかないと思います。もしくは過疎地域での診療報酬を1点15円にする、〇〇県限定医師免許を作るなどの対策が必要ではないでしょうか。
普通に受験して奨学金もなしに学費を払って取得した医師免許と、縛りを受け入れる代わりに簡単な条件で手に入れた医師免許が同じであることはみな納得ができないでしょう。
地域枠で入った人がその地域で勤務するのは当たり前ですが、そうでない人がその地域で働くのがアホらしくなってしまい、さらに医師不足を加速させているという意見もあります。
この訴訟、自治医大は負けると私は思います。取得できる医師免許に制限をつけるのがやはり解決策になるのではないでしょうか。厚生労働省の手腕が試されます。

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