大腿骨近位部骨折を循環器内科ガイドラインから考える

医療

循環器内科のガイドラインにたくさん書いてあるなんて初めて知りました。

いいこと書いてあるので抜粋します。

100ページから3ページほどを読みます。

「高齢者大腿骨骨折後,25% の人は歩けるようにならず, 生活が依存的になり,施設入所する人も多い.オーストラリアでのシナリオ・ベースの研究で,大腿骨骨折により ADL が依存的になると QOL が悪いと評価し,80% の人 は死亡よりもつらいと評価した」

Salkeld G, Cameron ID, Cumming RG, et al. Quality of life related to fear of falling and hip fracture in older women: a time trade off study. BMJ 2000; 320: 341-346. PMID: 10657327

必ず手術説明の際に言いましょう。患者とその家族はあまりにも甘く考えていることがおおいです。また階段をのぼって自宅で生活できると思っていたりします。

「日本整形外科学会の全国調査で,2018 年の発症数は年間約 10 万 4 千例(回収率 68.4%),女性が 77%,平均年齢は男性 78.5 歳,女性 83.5 歳と報告された。年間 17 万件 という報告もある」

Orimo H, Yaegashi Y, Hosoi T, et al. Hip fracture incidence in Japan: Estimates of new patients in 2012 and 25-year trends. Osteoporos Int 2016; 27: 1777-1784. PMID: 26733376

日本整形外科学会プロジェクト研究事業:大腿骨近位部骨折全国調査結果 2018年発生例調査結果. 

どんどん増えています。

「大腿骨近位部骨折後の 30 日死亡は 1%  1年以内の死亡率は 10% とされる。骨折自体で死亡するわけではなく,心疾患,呼吸器疾患,悪性疾患,認知症 が主な死亡原因である。」

Sasabuchi Y, Matsui H, Lefor AK, et al. Timing of surgery for hip fractures in the elderly: A retrospective cohort study. Injury 2018; 49: 1848-1854. PMID: 30097309

 Sakamoto K, Nakamura T, Hagino H, et al. Report on the Japanese Orthopaedic Associationʼs 3-year project observing hip fractures at fixed-point hospitals. J Orthop Sci 2006; 11: 127-134. PMID: 16568383

Panula J, Pihlajamäki H, Mattila VM, et al. Mortality and cause of death in hip fracture patients aged 65 or older: a population-based study. BMC Musculoskelet Disord 2011; 12: 105. PMID: 21599967

いやほんとに死ぬんですよね。大腸がんと同じくらい悪いはずです。家族もそんなこと思ってもないので最初に言うのが大事。弱っている人でないとそもそも起きない骨折です。

「日本整形外科学会の調査でも,全症例の 94% が手術療法を受けていた」

日本整形外科学会プロジェクト研究事業:大腿骨近位部骨折全国調査結果 2018年発生例調査結果.

たまーに保存療法とすることがありますが6%くらいなんですね。まぁ体感的にもそんなもんでしょうか。

「Sasabuchi らは 2010 年 7 月から 2014 年 3 月の間に日本全国で治療された大腿骨近位部骨折の診断群分類 (DPC)データベースを解析し,治療費は 1 人あたり 166 万 円,入院日数中央値は 30 日と報告した.」

 Sasabuchi Y, Matsui H, Lefor AK, et al. Timing of surgery for hip fractures in the elderly: A retrospective cohort study. Injury 2018; 49: 1848-1854. PMID: 30097309

入院日数中央値はもっと長い気もします。治療費もその後のリハビリや生活の変化を考えるともっとかかっていそうです

HIP ATTACK trial「HIP ATTACK trial として,6 時間以内に手術する群と6 ~ 24 時間で手術する群を比較した RCT が実施された. 6 時間以内群は骨折診断後 6 時間(4 ~ 9 時間),コント ロール群では 24 時間(10 ~ 42 時間)で手術された.90 日 死亡率には有意差がなかった.この 2 つの SR と 1 つの RCT からは,48 時間以内の手術で死亡率が低下するが,6 時間まで短縮してもさらなる 死亡率の低下はないようである.」

HIP ATTACK Investigators. Accelerated surgery versus standard care in hip fracture (HIP ATTACK): an international, randomised, controlled trial. Lancet 2020; 395: 698-708. PMID: 32050090

以前記事にした48時間以内手術で加算というのはこれが根拠のようです

緊急整復固定加算です

日本からのデータ「日本整形外科学会の調査では,手術までの平均待機期間 は 4.05 日,中央値 3 日(25% 四分位 1 日,75% 四分位 5 日である.Hagino らの調査によると,3 日以上手術が遅延する理由は手術室の確保困難で,ついで合併症,麻酔科医の確保困難等を挙げている.上記 SR には含 まれていない日本全国の DPC データを基にした Sasabuchi らの後ろ向き研究では,入院 2 日目までに手術を受け た早期群(全体の 23%)と 3 日目以降に受けた遅延群(全 体の 77%)で,30 日後の死亡率は早期群 1.0%,遅延群 0.9% であった.日本からの報告では,48 時間以内手術は 早期予後を改善していない.この手術遅延の 1 年死亡率へ の影響は不明である.」

 Hagino H, Endo N, Harada A, et al. Survey of hip fractures in Japan: Recent trends in prevalence and treatment. J Orthop Sci 2017; 22: 909-914. PMID: 28728988

 Sasabuchi Y, Matsui H, Lefor AK, et al. Timing of surgery for hip fractures in the elderly: A retrospective cohort study. Injury 2018; 49: 1848-1854. PMID: 30097309

日本でのデータでは48時間以内でもあまり差がない様子。

合併症で手術が遅れるのはたしかにそう。

でも評価せずに手術して合併症悪くしたら訴えられるだから仕方ない・・・と考えていたのでガイドラインでそんなの関係ねぇから早くしろって言ってくれるのはありがたい。

「早期の高度疼痛患者の割合は,24 時間以内手術をする と 24 時間以降手術に比較し減少した(図 32A)479).傾向スコア・マッチングした 2 群で 5 日間の平均疼痛スコア(5 点 満点:5 点が高度疼痛,1 点:痛みなし)が比較された.24 時間以内の手術で疼痛が有意に改善した(2.87 点 vs 2.63 点,p = 0.01)HIP ATTACK trial 491)では,6 時間以内の手術で,6 ~ 24 時間手術に比べ,中等度以上の痛みを訴える患者の割合は,4 日目以降に有意に減少した.疼痛に関しては,きわめて多くの患者に高度の疼痛があり,早期に手術するほど疼痛は改善する.」

Orosz GM, Magaziner J, Hannan EL, et al. Association of timing of surgery for hip fracture and patient outcomes. JAMA 2004; 291: 1738-1743. PMID: 15082701

HIP ATTACK Investigators. Accelerated surgery versus standard care in hip fracture (HIP ATTACK): an international, randomised, controlled trial. Lancet 2020; 395: 698-708. PMID: 32050090

早期手術で,痛みや感染症,褥瘡、せん妄は減少する。

(歩行能力は変わらない??)

日本での手術のタイミングとコスト

「大腿骨近位部骨折に対し早期手術をすることで 30 万円軽減したと報告され ,コスト面からも早期(2 日以内の手術)はメリットがあることが示された.」

Sasabuchi Y, Matsui H, Lefor AK, et al. Timing of surgery for hip fractures in the elderly: A retrospective cohort study. Injury 2018; 49: 1848-1854. PMID: 30097309

結論

早期(48時間以内)に手術しよう!